<このコーナーではブライオンの理屈っぽい作品のみならず、近しい詩人たちの面白い作品を紹介して行きます>
詩は書きたく無い
城 久道
詩を書きたく無くなった
書くことが無い訳ではない
言いたいことは沢山ある
だが 同人誌の紙の上に書かねばならぬ必然性が
見当たらぬのだ
食うための 必然性を伴う特許明細書の翻訳に
時間を取られることもある
金を生まない書き物をする贅沢をしたくない
という気持ちもある
しかし 本音は詩を書くことに魅力を感じなくなった
というところに落ち着くのかも知れない
食い扶持稼ぎにやっている翻訳の方に却って
知的好奇心をそそるものが一杯詰まっている
たとえば 今進行中の仕事は『暗号』についての発明だ
あなたは『暗号』についてどれだけ知識がありますか?
気が付いてみると『暗号』の仕組みなぞ まるきり識らない
早速 パソコン中の平凡社「世界大百科事典」で 概略を調べる
なるほど 仲々興味深い しかし英語の術語が見当たらない
英語に翻訳する以上 英語のテクニカルタームが必要だ
手持ちの参考書をひっくり返してみても
『暗号』の説明なぞ 殆ど無い
新しい参考書を本屋へ探しに行く暇なぞ 有ろう筈がない
しかし 慌てる必要もない
インターネットでイギリスへ行けばよい
かの有名な"ENCYCLOPAEDIA BRITANNICA"という心強い味方が
こういう時のために居るではないか
早速「ブリタニカ」のお世話になる 有る ある『暗号』が
"cryptograph"というのさえ知らなかった
"cryptosystem", "cryptology",
"transposition ciphers", "two-key
cryptography", encryption", "types
of cryptanalysis"
そして"Developments during World Wars
I and II"
という項目もあって 日本の暗号事情までちゃんと出ている
細かい字で とてもゆっくり読んでいられない
引き続く作業で使用するために そのままプリントする
きれいな参考書類が 瞬く間に手に入る
元々翻訳作業自体が 暗号を解くようなものだし
暗号を解きながら『暗号』の仕事を完成させて行くのは
とても興味深く 面白い
そして納期までに きちっと仕上げれば
なにがしかの収入となる それで新しい道具を増やして
パソコンでジャズを聴きながら 翻訳のキーボードを叩く
今の同人詩誌が老人ホームの回覧板と揶揄されるのも
宜なるかな 書き手も中味も老朽化の一途を辿っている
旧態に安住する姿勢は私の生き方に馴染まない
木簡や羊皮紙が紙の本に変わったように
紙が媒体として何時まで生き残れるか?
既に保存性、経済効率からしても
紙を超える材料が 一般に流通する時代なのだ
自費出版はCDが当たり前 という時代はそこまで来ている
インターネット上にホームページがあれば 自分のデザインで
自分の方針に従い 自分の書きたいことを 自分の編集により
自分の締め切り日で自由に書ける
となれば 私が同人達に求めるのは
一緒におだを上げながら 酒を飲むことだけだ
その交流の中にこそ 詩がある
CDでは一緒に酒を飲めないし インターネットでは
盃をやり取りできない
だからといって 紙の同人誌の必要性がある訳でも無い
それにしがみ付いて 詩を書かねばならぬ必然性が
私には 今見当たらぬのだ!
おお君が代
城 久道
君が代の君は 君ではない
と君らは言うが
もし そうなら
君が君では無いことを
君らの方で 明快に示すべきだ
どう読んでみたって
君が君以外であり得ないのは
誰の目にも明らかだ
本当に 市民が主体であるのなら
みんなの為にある歌が
君を唱うのは 可笑しい
尤も君が名実ともに権力を握ったのは
大和朝廷確立の後 そう幾らもない
いつも君は 体よく利用されて来ただけだ
権力者が錦の御旗として振りかざすために
去勢され 飾られて来たに過ぎない
それは君の責任では無い
という意見もある
哀れだ とは思うが
だからと言って 君に責任が無い
とは言えない
権力者に口実を与え続けた
という責任を消すことは出来ない
あの暑い夏に 君のためだ
と言いくるめられて
若い生命が無惨に踏み潰されて行くのを
阻止し得なかった責任は 決して消えない
あの萎びた狸のような総理が
節操も主義も 何も無く
野合のように 相手を選ばずつるんで
権力を維持しようとし
君を唱う歌を 国の歌に決めてしまった
それまで対立する側に立つように
見せかけて来た宗教団体の傀儡までが
権力のおこぼれに与ろうとする
その無責任 いやその破廉恥さ
また暑い夏がやって来て
若い生命の摘み取られる日も
やがて 再びやって来るだろう
無駄死にするのが 自分で無ければ
それでよい と君らは言うのか
それでも君は権力者に利用され続けて行くのか
国は君のためにある訳では無く
ましてや 狸や皮を被った宗教団体のためでも無い
平凡な 何の力も無い どちらかと言えば無教養な庶民のもの
平和で さして豊かではない普通の一生を終える
そんな人々が ささやかな誇りをもって唱える歌
それは どうしても君が代では無い
(註)書きながら「海ゆかば」の一節「大君の辺にこそ死なめ」が頭をよぎりましたので、タイトルに引っ掛けてみました。
<「詩文学」第136号所載>
また一日汚してしまって
土 みゆ子(「詩文学」同人)
バカ息子にせがまれ チャーハンを作る 急ぎすぎてレンジの隙間にごはんを落とした チェッ まあいいか 夕べ殺しそこねたゴキブリのディナーの一品になればよい ゴキブリだって わたしだって 生きるために食べてるんだから
夕べは敵を殺しそこねた兵士 今日は天使のようなわたし おとといは 鳩を自転車で轢いてやろうと思いどっこい逃げられた 必死に生きているものは殺しにくいものだ このようにして一日は経ってしまい シャワーを浴びる 偉そうに 垢は背筋を伸ばして 排水口に流れていく
モナミ!
なんで あんな石みたいに冷たいヒト好きになったんや? そうやな! 冷たいヒトは ぬくーしててやらんと よう生きていかへんやろ?
<「詩文学」第135号所載>
詩人たちと訣別しよう
城 久道
粘土や木材や金属を使って
造形したり 削ったり 鋳造すれば
彫刻が出来上がる訳では無い
眼で捕らえた 己の思想を
削り出したり 鋳込んでこそ
彫刻が生まれる
カンバスや絵の具や絵筆を使って
形を描いたり 彩色したり 絵の具を削り取れば
画が出来上がる訳では無い
眼が剔り出した 己の美意識を
表現し 再構成してこそ
画が生まれる
楽器や楽譜やメトロノームを利用して
発音させたり テンポを定めたり 変奏すれば
音楽が出来上がる訳では無い
心が捕らえた 己の感性を
弾き出し 溶かし込んでこそ
音楽が生まれる
名句や辞書や既存の詩集を利用して
言葉を並べ替えたり 削ったり 体裁を整えれば
詩が出来上がる訳では無い
信ずる美学を 己の言葉で
吐き出し その中に蘇らせてこそ
詩が生まれる
詩集や辞書からの単語を
それらしく並べ立てたのが詩であって
徒党を組んで 内輪にそれらを弄ぶのが
詩人であるのなら
詩人とは呼ばれたくない
そもそも創作は徒党を組んで行うものでは無いし
誰からも期待されず 誰からも相手にされぬ
実りを夢見ることすら叶わぬ
報われない 孤独な作業である
だから 詩人と呼ばれる人たちとは訣別しよう
<2000年1月作>
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